サイバー戦争が始まった(37) サイバー戦争の行く末

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。

「で、どうするね」
「どうするって、なにがですか?ぼくらの仕事はここまでですよ。あとは政治家とか官僚が考えることです。ぼくらはやるだけのことはやった。そして成功した」
「その後だよ。当然だが、これからは占領地のゲリラ掃討が我々の主要な役目になる。その予算を、毎年計上しなければならない。まずは主計官にそのことを話したら、既に計算は済んでいてね、答えを見せてくれた。毎年5兆円では足りないそうだ」
「つまり、司令はなにを私に考えろ、と言うのですか?」
「これからのゲリラ掃討と、そのための軍の維持は我々のためにも必要だ。しかし、カネがない」
「つまり、現在の予算の1/3でゲリラ掃討作戦計画を作れ、ってことですね」
「それだけじゃない。占領地の経営もしなければならないから、軍の予算はこれまでの1/3では済まない。もっと減らされることは確実だ。1/5で考えてくれ」
「か、考えてくれ、ってそれは、。。。。無理ですよ。わかってるでしょう。やるとしたら、軍の大幅なリストラをすることから始めないといけません。わかってるでしょう?」

軍事計画を毎年策定している私は、わかっていて「わかってるでしょう?」という言葉を重ねて大きな声で繰り返した。意識的に、だ。司令は答えた。

「つまり、戦勝後の君の最初の仕事は、軍の大リストラだ。その計画を明日の昼までに出してくれ」
「わかりました」
「ついでに言うが、リストラして、軍のちからを削いではならない。それではゲリラなどの残存敵に狙われる隙を作るだけだ。完全なIT化で減らした人員の削減分の兵力を補うのだ。わかったな」
「わかりました」

それは、「わかりました」という他はない、「命令」である。「戦争に勝つ」というのが、その国の富を増やす、ということと思っていた時代は終わった。それは幻想である。そんな時代がやってきたのだ。いや、昔からそうだったのだが、今までは見て見ない振りをしていただけ、なのかもしれない。


世界的に「戦争」の形はITの登場で変わった。戦争の原因は感情的問題ではなく、基本的に経済的な問題であることは、この前の戦争を見ればわかる。戦争は国どうしの喧嘩ということになるが、人間一人ひとりの喧嘩でもそうだが、冷静なほうが勝つ。感情的に動いたほうが負ける。感情にまかせての暴走、そして戦争は一時的な勝利を得ることはできても、中期、長期の結果としては負けることが多いのは、歴史が示す事実だ。「冷静になる」ということは数字=お金や時間で、損得を計算する、ということだ。これに徹したところだけが、戦争の果実にありつける、と言ってもいい。何事も、感情が先走る人間は苦労するだけなのだ。

実際、現在の世界では世界的な不況が続いており、世界経済そのものが一部は危ないところまで来ている。株価と実際の景気は時間軸上でも一致せず、「株価は景気の先行指標」という常識も崩れつつあるのは、目の前を見てもおわかりの通りだ。強力な仮想通貨の台頭は従来型の国を単位とした経済圏を無視した形で動き始めた。「国」という存在そのものが問われかねない事実が重なっている。経済学そのものも古くなっており、それは国が行う「戦争」についても言える。

旧来の戦争において使われた強力な武器による敵地域や敵戦力の破壊は、そこにゲリラなどの隠れた攻撃者を多く作り、トラブルが長引き、採算があわなくなる。それだけではなく、破壊し占領した地域の管理は占領者の大きな負担になる。戦前でも、日本が朝鮮半島、台湾などの「外地」を占領した時期、その「領有」の維持と発展の責任を日本政府が負うことになり、そのための出費は、当時の日本政府の財政を傾かせたことも一度ではない。ましてや、現代のように長期にわたる汚染が残ることがわかっている核兵器、細菌兵器などの使用は、戦争に勝つことはできても、占領地を使ってなにかを生産する、ということも長期にできず、論外と言っていい。

実際、戦前の日本政府の占領地経営を任された国策会社「東洋拓殖」は、その名前の通り、開拓地(植民地)経営のために設立されたが、結局のところ経営に失敗し、太平洋戦争開戦直前には当初目指していた「占領地の移民経営」に破綻し、「長期金融会社」として生き残る道を探す他はなかった。土地は持っていても、その土地から上がる利益が予定通りにならなかったからだ。占領地経営とは、そのくらい難しいものなのだ。

残る道はなにか。この時代に軍が生き残る道はなにか?詰まるところ、軍の大幅な人員削減とICTの本格的な採用による「サイバー軍化」に向かうことは必然である。


実は、軍のICT化による大幅人員削減はあまり簡単ではない。まず、我が国の場合は法規制があり、軍を大きくするにも小さくするにも、大きな代償を伴うのは明らかで、誰もが「ネコに鈴をつける」役目をやりたがらない。私は頭を抱えた。国防のためにも、また、前述の軍の存続のためにも、ICT部隊強化は必須項目だ。しかし、それができないとなると、話は先に進まない。

八方手は尽くした。しかし、みんな怖がって、我が身可愛さで、実力のある幹部や、影響力の強い政治家、官僚はこのことに手をつけたがらない。このまま放っておくしかないが、このまま放っておけば、計算では3年で破綻が来る。ぼくはため息をついた。

そのとき、警報が鳴った。スピーカーからこの参謀本部だけでなく、国内の全部隊に警報が発せられたのだ。

「警報、警報。30秒前にK国より本邦に向かって飛翔物体が発せられ、現在首都圏のどこかの地域に向かって飛行を続けているもよう。各部署にあっては、あらゆる場合を想定して、待機の体制を取ってください」

戦争に負けたK国。しかし、ミサイルを作って飛ばすゲリラが、K国の山間部に大規模なまま残されていた。今回はどうやらそこからの「発射」のようだ。警報のアナウンスは最悪の事態をも想定されるものだった。最悪の事態?そう、核兵器の発射とか最近兵器の搭載などだ。調査ではK国のバックエンドには現在5トンの炭疽菌が兵器として保存されているとのことだ。まだ完全な武装解除ができていない時点だ。目の前のDEFOCNのインジケーターは一番上の位置で張り付いて光っていた。

「あっ。これしかない」

ぼくはそこでひらめいた。K国だ。K国のゲリラだ。あそこを使えばいい。今回の「発射」も、よく考えたら、今年で4回め。K国が戦争に負けてからは2回めだ。一向に弾頭になにかを載せて飛んできた気配はなく、ほとんどが我が国の排他的経済水域のさらに外を狙っているものばかりだ。これを使えばいい。元はといえば、西側の某国からの技術援助でできたミサイルである、という噂もあるが、このさい、それはどうでもいい。ぼくは司令にアイデアを話した。

「司令、いい考えを思いつきました」
「なんだね?」
「K国のゲリラ部隊ですが、完全に掃討しないで、交渉できる相手に育てましょう」
「なにを言うんだね。私たちのミッションとは違うじゃないか」
「いいんです。我が軍が現代に生き残るための、これは方便です」
「方便?」
「そうです。K国のゲリラはなかなか掃討できない、しつこい、しょっちゅうミサイルを打って脅迫してくる。いつなにをされるかわからない。これを防ぐためには、K国のIT施設を破壊して、ミサイルを作れないようにするしかない。そういうストーリーを国内にお願いします」
「なるほど。脳も情報もない議員連中や官僚連中を怖がらせるわけか」
「簡単に言えばそうです。そして、予算とともにサイバー部隊の創設をプロパガンダします」
「わかった。すぐに国内対策部の部長を呼ぶ。打ち合わせて、国内向けのプロパガンダ作戦計画を立ててくれ」
「それだけでは不足です」
「わかっとる。K国ゲリラ向けに、カネも用意してある。特殊戦部隊に交渉の窓口を用意してある」
「司令、すみません。ありがとうございます」
「予定では1週間後に次のK国のミサイルが発射予定だ。国内大手重工会社の技術者が現在K国にいる。彼がパイプ役になる」

司令との話はそれで終わった。

そして、紆余曲折を経たものの、その翌年の予算編成の時期までに、我が軍のサイバー部隊創設の世論は盛り上がり、国会でも超党派の支援で、関連法案が可決・成立した。代わりに削られたのは、従来武器の購買予算ではあったが、たとえば、高性能ジェット戦闘機の購買価格が一機数百億円だが、その一機を削れば、サイバー部隊の年間予算が捻出できた。その予算は問題なく国会を通過できる予定となった。

「やりましたね。司令」
「君のおかげだ。これで我が軍は最新のサイバー防衛部隊を持つことができる」

たしかに、サイバー部隊は安く、効果が高かった。敵基地を攻撃するにも、最初はサイバー部隊が使われ、インターネットを通した敵国撹乱、同じことをされないための自国防衛などは言うに及ばず、初動で敵国の混乱を誘う。通常はこれでだいたい敵の動きを封じることができたが、サイバー攻撃でも敵を封じることができない場合は、やはり通常兵器の出番となったのだが、それは限られた。また、敵に勝った場合でも、汚染などの被害はないことから、社会システムはほとんどそのままで使えるのも大きなメリットだった。結果として、核兵器に代わって、サイバー部隊どうしの戦争が人間の歴史の中で世界の均衡を作る時代となった。

獲得した予算で国内の辣腕のハッカーが集められ、サイバー防衛軍に加わった。

 


 

男の前用のシャワートイレ

最近、日本ではどの公共施設、商業施設に入っても「シャワートイレ」が入っている。入っていないと、ろくな施設ではない、というように言われることも増えてきた。しかも、一般家庭にも、もちろんシャワートイレが増えている。しかし、これだけ日本中に普及しているシャワートイレだが、まだ「男の前用」のシャワートイレはない。

「男の前用のシャワートイレ」を作るには、コンピュータ画像処理で、ターゲットに狙いを定め、シャワーの水を噴射する、というやり方をしないと、衣服を水浸しにしたりすることもあるから、けっこう作るのが面倒だが、Raspberry-Piなんか使って、ハッカソンで作ると面白いんじゃないだろうか?いや「どうやって発表するか」という問題はあるかも知れませんが。。。。あ、おもちゃを使う、って手もないわけではないか。。。。

「ピッ!対象を認識しました。そのまま動かないでください。水が出てきます」

とかってアナウンスがあって、両側からシャーッと、水が出て来る、とか。

「ピッ!対象が小さすぎて認識できません」

と、言われると悲しいんだが。。。。

 


サイバー戦争が始まった(36) USBキーボード

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。

「お!Macみたいなかっこいいキーボード買ったな?」
「いえ、会社のキーボードが使いにくくて、家で使っているMacと同じタイプのキーボードにしたんですよ」
「自腹か?」
「もちろんそうです」

私の友人の真二は、こういう「PCにつなげる小物」が大好きで、毎週の週末には秋葉原に行っては、なにか新しいものを探してきて、月曜日の朝には会社にそれを持ってきて、職場でそれを見せびらかしては、悦に入っていた。まぁ、毎週のことだ、と、私を含めた誰もが思った。そう、今日は月曜日の朝だ。職場の誰もがそんな真二を「PCヲタク」と思っていた。実際、PCについてはかなり詳しく、ちょっとしたトラブルはみんな彼に聞くのが普通になっていた。

夕方になって、情シス(社内の情報システム統括部門)の洋二が私のところにやってきた。洋二は社内にいても、山高帽をかぶって、縁の黒い丸いメガネをかけた、マンガみたいなやつである。彼は、鼻が大きく、メガネがその鼻に載っているように見えるので、いささか古いことで恐縮だが、漫画家の「久里洋二」に似ているので、社内では「洋二」と呼ばれていた。つまり「洋二」は本名ではない。本人もそれを意識してそういう格好をしているようで、夜の飲み会でもそのスタイルは崩さない。

洋二は開口一番、重い口調でこういった。

「この部署が怪しい」

私は洋二に聞いた。

「なにがあったんだ?今日はいつもと変わったところはない。もうほとんど帰ったけどね」

洋二はそれには答えず、がらんとしたその職場の中を、洋二が行ったり来たりして、なにかを探しているのがわかった。そんな洋二の動きが、真二のPCの前で止まった。真二はもう帰宅している。洋二は唐突に言った。

「このキーボード、借りていっていいかな?」
「あぁ、良いと思うけど、これ、真二の私物だよ。機能の日曜日に秋葉原で見つけてきた、って言ってた」
「大丈夫。これから30分借りて、元に戻しておく。すまないが、あと30分、ここにいてくれ」

そういうと洋二はそのキーボードをPCから外し、情シスの部屋に戻った。そして、30分。洋二が真二のキーボードを抱えて戻ってきた。そして、真二のPCにキーボードを元の通りにつなぎ、キーボードの位置を元に戻した。洋二は言った。

「大丈夫。明日、真二が出てきたら、このことは言わないようにお願いしますね」
「わかった」

それから1週間後、ぼくは洋二に呼び出され、情シスの小さな会議室に呼ばれた。その部屋には、なんと社長、情シスの室長、そして洋二がいた。洋二がパワポのスライドをプロジェクターで白い会議室の壁に映し出し、解説を始めた。

「社長、真山室長、などなど、お集まりいただきまして、ありがとうございます。今日は、今週月曜日に当社システムのクラウドが外部の何者かに乗っ取られた件につきまして、簡単に解説をさせていただきます。なお、対策は既に施してあり、全社的にクラウドのパスワード変更もお願いして、実施していただきましたが、当社の主要顧客である防衛省などの政府機関のデータが外部に漏洩したかどうかにつきましては、残念ながらその全部は把握できておりません」

会場は社長はじめ、数人しかいないのだが、全員の顔が青くなり、緊張が走っているのがわかった。小さな沈黙がちょっとあった後、社長が言った。

「で、洋二くん、その先を続けてくれたまえ」

洋二は社長に促され、話を続けた。

「では、解説いたします。本件は既に社長個人には別の場所で緊急にお知らせしており、社長は二度目であると思いますが、詳細に解説いたします」
「問題の発生は、どうやら、営業3部のPCに接続された、私物のキーボードである、と思われます。月曜日当日、外部からの不正なアクセスを検知し、情シスでは携帯電話キャリアの協力により、R国からのアクセスであることを確認いたしました。ただし、防衛省、その他の政府機関の案件を扱っている当社の親会社、及び当社自身では、現在日本と敵対を伝えられているC国とR国からのサイバー攻撃は日常茶飯事となっており、十分な対策が施されており、問題は発生しておりませんでした。現在は非常に厳重な対策が施されており、社員のPCやスマートフォン、最近流行りのスマートスピーカーなどに至りましても、私物のものも含め、全て精査されており、誰がどこからアクセスし、どういう情報にアクセスしたかも全て把握しております。しかし、今回の不正アクセスは、社員番号も特定されていますが、どうやら営業3部の真二さんのものからと特定されましたが、」

社長がそれを遮って言った。

「が、どうなんだ。なにか特別なことがあったのか?」

洋二は続けた。

「実は、当社の不正アクセス監視システムは、親会社の開発になる、自慢の人工知能のディープラーニングシステムを搭載しており、全社員のシステム内での行動パターンを常に記録し、異常な行動があると、アラームを出す仕組みが付加されています。実は、真二さんのこちらで把握した月曜の午後のアクセスにアラームが鳴ったのです。真二さんは防衛システム担当ですが、いつもアクセスしている防衛システムだけではなく、防衛システムの根幹を揺るがしかねない、防衛システム向けのインテリジェント無停電電源システムの回路図とプログラムソースコードにもアクセスがあったのです。真二さんは営業部なので、本来は技術部が必要とするような、こういった開発そのものに関わる詳細な技術情報を直接アクセスすることは、これまでにめったにありませんでした。こういった情報への真二さんのアクセスは、営業の便宜のために可能にはしてありましたが、真二さんの日常のアクセスは、製品カタログのPDFがほとんどで、客先からの要求に応じて、技術部に出向いて、資料を指定されたときだけ、技術情報にアクセスするのが普通でした。しかし、月曜日の午後の真二さんのシステム内の行動は違った。つまり、技術部への問い合わせなどがあった形跡はないのに、防衛システム用無停電電源装置のハードウエア回路図、ソフトウエアソースコードにアクセスがあった。だからアラームが鳴ったのです」

ここまで聞いて、私は、真二の自慢の髭だらけの顔を思い起こした。彼が?なぜ?なんのために?真二は姿かたちこそ「怪異な中年」だが、穏やかな性格の妻は社内結婚、子供は小学校5年生を筆頭に男女2人いて、夫婦共働き。妻が忙しいときなど、ときどきは会社から早めに帰って子供の夕飯を作ったりする、「良き家庭」の「主夫」をすることもあった。趣味は秋葉原を歩いて、面白いPCのアクセサリーを買うことと、飼っている白いネコの遊び場を日曜大工で作ることだった。

しかし、人工知能システムで自分たちの行動が全て家庭に至るまで監視されていたとは、はじめて聞いたが、たしかに、それは有効な方法だろうし、センシティブなシステムを販売している当社としては、実際に動いていて不思議はない。

洋二はプレゼン資料のパワポのページをめくりながら続けた。

「そこで、今度は夕方に営業3部に向かい、部長の監視のもと、真二さんのPCに接続されている私物のUSBキーボードを発見し、調べさせてもらいました。」

あぁ、あのときのことか。と、私は思った。

「そこで、情シスの部屋でキーボードを分解したところ、キーボード内にUSBメモリが別途仕掛けられていることが判明しました。その内容をその場で別のところにコピーし、解析し、以下のことがわかりました」

小さな会議室には、先ほどよりさらに重い緊張が走った。洋二は続けた。

「まず、このキーボードをPCに差し込むと、USBメモリ内にある、あるプログラムが自動的にPCにインストールされます。表にはなにも表示されない工夫もされていました。そのプログラムは、いわゆるキーロガーと呼ばれているもので、接続した以降、真二さんのPCに接続されているあらゆるキーボードの打ち込みデータをPC内に記録します。それだけではなく、社内ネットワークやインターネットの出入り口である、イーサネットを入出力するデータも全て記録します。その他のPCの認証データなども記録します。このデータを使うと、外部のPCをあたかも社で管理されているPCであると偽装することができます。その記録は、就業時間後に社内ネットワークからインターネットに接続され、外部のR国の特定のサイトに送られます」

私はツバを飲んだ。洋二は続けた。

「そのデータを受け取ったR国の某サイトから、当社の真二さんのPCを偽って、当社サイトに侵入が確認されました。あたかも、就業時間後に真二さんが外部のモバイルからアクセスしたように見えます。しかも、IPアドレスがR国のものではないところが巧妙でした。それだったら、我々の警戒網にひっかかった。しかし、国内の携帯電話会社のモバイルからのアクセスになっていた。日本国内のモバイル各社のどれかのサーバーを経由していたので、私たちはこの段階では全く気が付かなかった。つまり、R国から日本国内のキャリアのモバイルルータを経由して、当社のネットワークに、真二さんの振りをして侵入してきた」

「しかし、そのアクセス行動が真二さんのいつもの行動とは明らかに違っていたのが人工知能システムでわかり、アラームが鳴った。そこで、私たちはニセ真二さんのアクセスを直ちに遮断しました。しかし、時は既に遅し。いくつかのファイルは、最悪の場合、R国の手に渡った、と見て良いでしょう」

「本件につきましては、社長にただちにご報告し、その場で口頭ではありますが、防衛省の当該部署に連絡を取り、詳細ご報告を申し上げました。防衛省側の担当者の話では、武器等のセンシティブなものの技術情報ではなく、電源である、ということで、問題ない」とのことでした。また、、真二さんのキーボード内のプログラムは私が消去しておきました」

小さな会議室に長い沈黙の時間がやってきた。スライドは終わった。

それから数日したある日。沖縄に近い島の新しい自衛隊基地で、操作の不手際による大量のバッテリーを積んだ無停電電源装置が爆発した、というニュースが流れた。この爆発によって、沖縄近くの防衛情報網、防衛網は本土からの代替機器搬入までの数時間、機能不全に陥った。そして、その数時間のあいだに、C国とR国の連合部隊は我が国の海上、上空の防衛網を密かに突破、かねてから問題となっていた小さな岩礁を占領、C国は領有権を主張した。

 

政府と国民

韓国で大学教授をしていた2年間で、面白い経験をした。ある日、大学に出勤したら、休みでもないのに、なにやら学校が静かだ。いつも開いている事務室の扉が閉まっている。おかしいな、と思って事務室のドアのノブを回しても、動かない。明らかに鍵がかかっている。いかしいな、と思って、現地の友人に電話をした。すると、彼は「あぁ、今年から、今日は公休日になったんです」。はぁ、聞いてないよ、そんなの!という感じだったが、まぁ、しょうがない。宿舎に戻った。夕方のテレビを見ていたら、今日の「休日」にそれを知って休んだ会社や役所がある一方で、休日とは知らず、営業していた会社もあって、国中が大混乱だった、というニュースをやっていたので、ぶっとんだ。日本ではまずこういうことは考えられない。要するに、韓国の国民は政府のことなんか聞いちゃいないのである。日本で生まれ育った私は、日本の政府といえば、非常に強固な存在であって、共産党だって、天皇誕生日は休みになる、というのが「常識」だ。しかし、韓国では違うし、この話をしたら、中国も違うという。どうやら、日本を除いた他の国では「国民が政府の言うことを聞いちゃいない」ってのは、常識なのだ。

ことほど左様に、日本では常識と思っていることが、外国では常識ではない、ということや、その逆のことはいくらでもある。

そういえば、韓国の大学での「教授会」もすごかった。勤務していた大学は学生が1万5千人いる大きな大学だったのだが、教授も600人くらいいて、年に一回、全体の教授会を大学の講堂でやる。これに出ると、これがまたすごい。総長が壇上に上がって、なにやら話す。そして、「ではご質問は」ということになるのだが、そのときの教授席から出る「質問」がすごかった。「おまえは、ソウルばかり行って、この大学にいることが少ない。なんなんだ!」など、ほとんど大声での詰問なのである。かなり激しい教授会なのだ。これを見たとき、しゃんしゃんで終わる日本のこの種の「会」とはかなり違う、ということがよくわかった。最近日本で流行りの「忖度」なんてものは、おそらく、あちこちにあるのだろうが、こういう場には出てこない。日本に比べて「民主主義」がちゃんと機能している、という、そういう感じもした。

お隣の国・地域といえど、これは違うなぁ、と思うことがたくさんあった。しかし、一人ひとりの人と話すと、みんな日本人以上にフレンドリーなのだ。

ということは、日本人の感覚で「韓国は」と表現すること自身の前提が変わってくる。つまり、日本人は「国の政府」と「国民」は日本のように一体になっているように思っているから、「韓国は」と言うと、「韓国の政府と国民が一体化したもの」を指すことになるんだが、実際の韓国では「国民」と「国の政府」は日本のように一体化していない。しかも、その「国民」も様々な考え方を持っている人たちの集まりがたくさんあって、収拾はつかない。だから、日本人が「韓国は」と言う場合、「韓国の政府は」ということなのか?それとも「韓国の国民のこの部分が」ということなのか?は、はっきりしておく必要がどうしてもあるのだ。少なくとも、韓国では「国の政府」と「国民」は「全くの別もの」ということになる。「韓国は」と一言で言い表しても、意味がないのだ。


サイバー戦争が始まった(35) マイナー攻撃

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。

「あれ、おかしいぞ?」

そう、マサルが気がついて、つい猫のトラしかいない自室で独り言をつぶやいたのは、日曜日の朝。インターネットは比較的空いていて、速い速度が出るときだから、仮想通貨、「ワールド9(W9)」のマイナーからのレスポンスが速いのは、まぁ、普通のことだ。前回は上位3位までのマイナーからのレスポンスが、約数秒かかっていた。しかし、普通の日曜日の朝でもその長さは1秒を切ることがなかった。しかし、この日の朝はなんと数十ミリセコンドしかかかっていない。

「なにかが始まっている」

マサルは、また一言、独り言を言った。いや独り言ではない。飼い猫のトラがPCの前に座る彼の膝にいて、そのトラに向かって言ったのだから。マサルは自分で作った「仮想通貨マイナートレーサー」という、仮想通貨のマイナーのそれぞれの動きをリアルタイムで把握するツールを動かして、解析をはじめた。すると驚くべきことに、いつもマサルの問い合わせに応じていた上位1位のマイナーからしか、レスポンスが受け取れていない。

「なんだ、速くてあたりまえだ。こりゃ」

トラはそんなマサルを黙って見ていたが、マサルはかなり驚いていた。いつもレスポンスがある上位3位の2位以下のマイナーを調べはじめた。すると、なんと、2位以下のマイナーからのPINGが非常に遅く返ってきている。tracerouteもしてみたが、途中のネットワークが切れているわけでもなさそうだ。二位以下のマイナーでは、ブロックチェーンの検証問い合わせにかかる時間も異常に長く、ブロックチェーンの検証結果がタイムアウトで使われていない。言い方を変えれば、2位以下のマイナーはいないに等しくなっている。マサルは更に調査をするために、自作のプログラムの改造をして、各マイナーのレスポンス統計を取ってみたが、結論は同じだ。マサルはW9の交換所にいる友人にメールでこのことを伝えたら、1時間後にメールが返ってきて、そのことを認めた。つまり、仮想通貨W9は、事実上1箇所のマイナーからしかレスポンスが得られておらず、世界中の数万箇所のマイナーは、なんらかの「攻撃」によって、潰されているらしい、とのことだ。返事のメールの文面は最後にこう書かれていた。

「大変に申し訳ないのですが、本件、マサル様と私どものみの情報とし、外部には一切漏らさぬよう、お願い申し上げます。」

おいおい、とマサルは思った。そんなこと、すぐに他の仮想通貨ハッカーたちが嗅ぎつけるに決まっている。長くてこの「秘密」は1日も持たないだろう。


「攻撃は成功したか?」

C国の最高司令官は技術者に質問した。それに対して、技術者は答えた。

「まだ途中ですが、大丈夫です。現在、仮想通貨W9のマイナーサイトはスマート・ドラゴンだけです。1時間前に流した、複雑で不正なトランザクションのブロックチェーンが、スマート・ドラゴン以外のマイナーで無限ループをはじめており、スマート・ドラゴン以外のマイナーが沈黙しています。マイナーの計算のタイムアウトが発生するのは数分間だけなので、このあいだに、ブロックチェーンのニセの認証情報をスマート・ドラゴンがレスポンスとして返し、それだけが独り歩きする仕組みです。では始めます」

そういうと、技術者は画面上のGUIの「実行」ボタンをクリックした。別の画面では、W9の各マイナーのモニターが動いており、各マイナーの動きが把握されていたが、画面では「スマート・ドラゴン」以外のマイナーからのレスポンスが全てタイムアウトで無視され、画面から次々消えていった。すると、技術者は言った。

「ミッションは第二段階に入ります。スマート・ドラゴンの内部の改ざんされたプログラムが、特定の不正なブロックチェーンでも正常なレスポンスを返すように設定してあります。そちらのプログラムに切り替えます。もっとも、スマート・ドラゴンは我々が実質運営しており、この中のプログラムは我々で変更し放題なんですよね。だから、ニセのマイナープログラムを動かすのも、認証を偽るのも簡単にできてしまう。」

技術者は画面上の別の「プログラム実行」のボタンをクリックした。すると、スマート・ドラゴンのロードアベレージがぐんと下がった。不正なトランザクションのブロックチェーンでも、どんどん受け取っては「通す」。その作業が始まった。マイナーの計算処理を一切しなくなったので、これは当たり前だ。数分たつと、技術者はさらに続けた。

「ミッション第二段階終了。ミッション第三段階に移ります。スマート・ドラゴンに集中したドランザクションのブロックチェーンに、大量の書き換えをして、全ての送金が我が国のある交換所の特定ユーザーへの送金になるようにします。ほんの数分間ですが。。。数分間といっても、かなりの金額になるのはご承知の通りです。もっとも、今回はそれだけが目的ではありませんがね。次の段階がありますから」

と言って、技術者は「第三段階実行」のボタンをクリックした。ボタンを押しつつ、技術者は言った。

「スマートドラゴンシステムは、単なるマイニングを行っているだけではなく、その背後には通常のコンピュータの約一億倍以上の計算速度を持つ量子コンピュータが控えています。SHA-256などの暗号も、一瞬で解くことができます。そのため、これまでも、他のマイナーとは全く違うパフォーマンスが発揮できており、多くの金額を稼いでもいますが、レスポンスが異常にはやい、という評判もマイナーの業界では普通になっています。したがって、今回の出来事が外部で不思議がられることは、当初はまずありません。しかしながら、早晩、気がつくユーザーはいるでしょう。そのときまで、攻撃が続けられます」


世界中で「W9の送金が届かない」「送金が横取りされたらしい」「W9送金が取り消された」などの報告が、SNSなどで拡散するのには、時間がかからなかった。やがて、W9のユーザーは短い時間に大量に離れていき、大量の交換所の口座を解約したが、W9から現地通貨のトレード処理にも「不正」が入っており、全くレスポンスがなくなる交換所も続出。この騒ぎは数日続き、数日後には、W9の交換所の全ての国のサイトが閉鎖に追い込まれ、交換所の経営者は全て詐欺罪で告発されるに至った。

仮想通貨・ワールド9はあっという間に「破綻」した。


また、この「仮想通貨不信」は他の仮想通貨ユーザーにも波及し、世界で全般的に仮想通貨ユーザーが激減した。「絶対安全」と言われていた「仮想通貨」は、「有事の第二の金」の地位を失ったのだ。そこに現れたのが、実質上C国の支配になる仮想通貨:「ワールドX(WX)」だった。この仮想通貨は、W9の欠点を補って、暴落時にはその暴落の比率に応じて、僅かだが一定のボーナスを受け取れる仕組みになっていた。つまり、暴落時に、C国の政府の信用で、最低預金が保証される仕組みになっていた。これに世界中の仮想通貨ユーザーが殺到したのは言うまでもない。

「これで我が国の軍備にもカネが使えるようなったな」

最高司令官はそう言ったが、技術者はそれに返した。

「しばらくはそうはいきませんよ。集まったお金を、W10に再投資して、W10の価値をさらに釣り上げてください。つまり、W10バブルを発生させます。その上で、ユーザーの満足があるうちに、最低保証は途中で切る。バブルを弾けさせるまでのあいだ、十分にお金を使ってください。これが、いまからのシナリオです」

「で、いくらのお金がどの時点で使えるのか、教えてくれるかね?」
「わかりました、今日の午後、司令の事務所に伺います」

予定されたバブルとバブル崩壊。W10ではそれが世界のレベルで動く。技術者は自分の指先ひとつで世界が動く、その快感をちょっとだけ感じた。


マサルは、「おかしい」と感じたその翌日から、W9の口座解約をして、被害は免れた。なにせマサルの家族のぶんも含めて、全財産の半分をW9に投資していたのだ。一時は半年で100倍以上も夢ではなかった資産を一瞬でゼロにされたらたまらない。慎重に、換金したときに税金がかかるのも承知したうえ、解約をした。そして、解約して数分後、W9の交換所の最初の破綻が伝えられた。間一髪の「脱出劇」だった。まるで映画を見ているみたいだった。W9が破綻して、WXに切り替わっても、マサルはWXには手を出さなかった。

「なんだかおかしいとは思っていたんだ。なにせこの種の仮想通貨の基礎技術のブロックチェーンについても、どこのニュースやサイトを見ても’絶対安全’くらいのことしか書いていなくて、デメリットというものが全く書かれていないんだからね。技術解説をいくらやられても、それを信用しろ、というほうに無理があるだろう。肯定だけされる現実というものはない。必ず、肯定と否定のバランスの上に事実というものが載っているのが、現実ってものだ」

マサルにしては珍しく、自室の中で滔々と「独り言」が出た。聞いていたのは、白黒のハチワレの彼の飼い猫、トラくんだけだった。ハチワレなのに、名前が「トラ」というのは、要するにマサルの前の飼い猫の名前をそのままもらっただけだった。

トラは自分を相手にしてくれたのだと思ったのだろう。「ニャァ」と一声鳴いて、じっとマサルの顔を見た。


サイバー戦争が始まった(34) お金の爆弾

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。
※本記事はこの本の続編です。他のエピソードはこちらの本をお読みください。

その日、秋元隆は仮想通貨「ワールド・エイト」の異変に気がついた。その日のうちに、日本円との交換レートが暴騰し、一日で昨日の100倍の値を付けており、いまだにその値は上がっていく。他の仮想通貨を使っていた人も、「ワールド・エイト」に乗り換えざるを得なかった。一昨日のニュースでは、日本にあるマイニング会社の大手が倒産し、脱税などの容疑でその会社の事務所に倒産翌日に家宅捜索が入った、ということで「ワールド・エイト」も、もう終わりか、と言われ、じわじわと値を下げていた。しかし、その倒産会社に「救いの手」を差し伸べたC国の会社があり、なんと数時間で状況は変わった。その全ての負債を肩代りするだけでなく、さらに「ワールド・エイト」の供給量を従来より少し絞る、という。

マイニングの量をコントロールする、というノウハウがあると業界でささやかれている「マイナーズ・アソシエーション」という組織が救済した会社の傘下にあるのだが、ここで動いているお金がどこからの資金で動いているのかは、誰にもわからなかった。

マイナーズ・アソシエーション、略して「MA」は世界の仮装通貨のほとんどのマイナーが集まっている、会社組織ではない集団だ。マイニング手法の最先端を行っており、少ない資源で多くの仮想通貨の採掘をすることで有名だった。彼らの採掘には、巨大なデータセンターなどはもう使わない。世界各国に散らばったマイニング・クラウドが仮想的にスーパーコンピュータを作っており、これらを管理するプログラムが彼らの「武器」だった。利用するクラウド拠点の数を指定して、MAに対して「投資」を行うと、その投資額にあったリターンがある、という仕組みで、当然、利用できるクラウド拠点の数によって、投資額が小は千円から、大は1億円までのメニューが揃っていた。MAのサービスはC国にある親会社の窓口から、オンラインで買えた。

案の定、その日の午後には、合理的ではない取引を扱った」という罪状で、日本の「W8(ワールド・エイト)」の交換所が株主からの告発で摘発を受け、即時取引停止、家宅捜索が行われ、翌日には社長と役員に告発状が発行された。しかし、新聞で発表された告発内容を調べると、少々違う。そこには「意図して社会の混乱を招く」という文言がこっそり入っていた。

「あ。これは」

秋元は思った。彼は、最初からW8をあまり信用しておらず、投資額も数十万円に抑えて、よくなる時期が来たら、投資額を増額するつもりでいたし、もちろんこういうことがあれば、すぐに引き上げる。引き上げる時間がない場合は、そのお金はあきらめる、というハラも決めていた。

日本のW8の交換所は現在のところこの会社だけだったから、日本中のW8投資家は大混乱だったが、日本ではそれほどW8の顧客は少なく、投資額も多くないために、世間には大きな混乱はなかった。と、思ったら、突然の「逮捕」、「暴落」、そして「救済」である。1日でこれが起きた。翌日から始まったW8の通貨供給量はマイニングを主に行っていたMAが握っていたが、なぜかこのとき、C国からの他の出資もW8取引所の救済された会社にあり、その市場価値は数時間で100倍を付けた。つまり、それだけインパクトのある投資が行われた、ということは、それだけの価値があることを誰かが知っていて、絶妙のタイミングでその投資が行われた、ということでもある。日本のW8市場は短時間の間に沸騰した。これまでマイナーといわれた仮想通貨が、数日で日本の仮想通貨のメインに躍り出た。もちろん、日本の銀行なども黙っていなかった。特に老舗のM銀行はW8を大量に買ったようだ、という噂が流れていた。

そして1週間後。秋元が恐れていたことが起きた。


「で、守備は上々、ってことでいいかね?」

C国の軍の最高司令官がMAのトレーディングルームに入ってきて言った。技術者が答える。

「大丈夫です。あと5分で次のミッションが始まります。まだ仕上げではありませんが、これで、日本の金融市場は大混乱に陥る」
「わかった。その後はどうするんだ?」
「我が国の投資銀行の投資対象を日本にも既に広げてあることは、先日お話をしましたよね?今度はここが救済に動きます。ターゲットは軍需産業で有名なMグループです」
「ほう、Mグループが我が国のものになるのかね?」
「結果としてそういうことになります。現在Mグループ各企業の大株主のM銀行が、先日のW8の100倍上げの少し前に、大量にW8を購入したのです。この銀行の担当者に、我が国のエージェントが、これから起きることを先んじて話をしておいたからです」
「担当者は喜んだだろうな?」
「もちろん。100倍を超える大儲けの話ですから」
「そして、彼らはいま、絶頂にある。これから起きることも知らないで」
「そういうことです。ではオペレーションの時間です。プログラムがちゃんと動いているかどうか、コンソールから見られます」
「ところで、日本のコール市場はどうだ?」
「動きが早すぎて、ついていけていません。現在は既に資金量も少ない。こちらもそのスピードと資金量を知って動いているわけですが」

最高司令官は、技術者のPCを覗き込んだ。そして10分ほどしただろうか。司令官が叫んだ。

「おお!どんどん下がっている。100倍から一昨日の価格以下まで落ちたな。連絡していいか?」
「どうぞ」

最高司令官は電話を取って、話を始めた。連絡した先は、C国の巨大投資銀行のCEOだ。

「我々のミッションはほぼ終わりかけている。次は君の出番だ。うちの一族には優秀なのが揃ってるな。君は特に優秀だ。わかってるだろうな?」

受話器の向こう側でCEOがなにかを大声で喋っているのを、そこにいた技術者が聞き耳を立てて聞いている。受話器の向こうで、CEOが喋っている。

「C国最高司令官殿、既に資金は用意してあります。明日の朝には結論が出ているでしょう。これで、100年以上我が国を苦しめたあのMグループは終わりです。既にMAにも司令を出しています。日本中の投資家は、今夜は喜びで眠れない夜を過ごす。そして、明日の朝には、Mグループもろとも、奈落に落ちる。これで日本の政府の国武器購入などの動きが完全にストップする。明日の夜は今度は悲しみと落胆で眠れない夜になるでしょう。日本人には」
「我々も明後日には宴会の用意をするかね?君もどうだ?一緒に来ないか?」

最高司令官の宴席に呼ばれるのは、その技官の出世が約束されたことを意味している。

「ありがとうございます。お伺いいたします」

技官の顔は、満面の喜びがにじみ出ていた。


翌日、W8は大暴落。W8の大半を日本で持っていたM銀行が倒産報道。そこに、C国の投資銀行から連絡があった。

「貴銀行の100年を超える歴史に敬意を表します。つきましては、我が銀行の出資を受け入れ、我がグループのメンバーとなられることを、心から。。。。」

M銀行には、他に、経済産業省など政府機関、知られた政治家などから連絡がもちろん入った。

「現在日本の国の政府とは敵対関係にあるC国の銀行傘下に入るのはやめてほしい」
「では、誰が我々を救済してくれる、というのですか?」
「…..」

政府関係者から数多くの連絡、圧力はあったが、背に腹は代えられない。そうCEOは返すしかなかった。

その日の夕方のM銀行の公開記者会見で、白髪のCEOが語った。

「これまでも、外資の受け入れには慎重ではありつつも、積極的に進めて参りました。今回のC国の投資銀行からの出資受け入れは、グローバル化を推進し、世界の銀行としてアジア地域に大きな拠点をも用意できる、とうことになり、非常に喜ばしいことと思えました。そのため、役員全員一致した意見として、このほど、C国投資銀行からの出資を全面的に受け入れることを決定いたしましたので、ここにご報告申し上げます」

秋元はその記者会見のテレビ画面を見て呟いた。

「終わったな」

日本は第3の敗戦をいま、経験した。秋元の飼い猫のミミが膝の上で「ミャア」と一声鳴いて、大きなあくびをした。

 

IT機器には数千万行のプログラムが入っている

ITの業界は、誰でもやれる仕事のように見えるが、そうではない。いや、どんな仕事も似たようなものだろう。人には個性があり、適正があるし、仕事にも、様々な種類があり、一律同じ仕事なんてものはない。その中でもITの仕事、特にソフトウエアの仕事は扱っているものが、外見以上に複雑で、外見以上に多様な知識を必要とするうえ、本質的に「不可視」である。だから、外見からは簡単に見えてしまう。しかし、その外見の下には、膨大で複雑なものがぎっしりと詰まっている。そのすべてを理解することは誰にでも不可能だ。

コンピュータもスマホも、誰もが簡単に使うようになったが、その裏側で動いている膨大なシステムは、全く外側からは見えない。だから、その外見だけで、それを作ることは簡単に見えてしまう。それを「素人」というのだ。

たとえば、5千円くらいの小さなコンピュータに入っているプログラムの行数は、そのOSだけで、2100万行弱である。これは年々増えており、OSの基本部分だけでなく、様々な機能を入れれば、その行数は、少なく見積もっても、おおよそ3千万行を下らない。しかし、スマホやPCを使っている人は、まさかその中にそれだけのプログラムが入っているとは思わないだろう。世界中のソフトウエア技術者が寄ってたかって作っているのだ。

しかし、3千万行のプログラムは実際に入っていて、動いている。だから、スマホやPCの便利な機能が使えるようになっているわけだ。しかし、これ、実際に現場でプログラムを書いている人には「常識」なんだけどね。

ちなみに、3千万行というと、1行のプログラムが5mmくらいのスペースを取るとして、そのプログラムリストは150kmに及ぶ。富士山の高さ40個ぶんになる。