現代人は「メンタルの谷間」であえぐ

人間とは、ネガティヴな感情がある自分を意識することで、心の平衡が保たれる生き物である。しかしビジネス社会においてはそれが抑圧されることが非常に多く、人間存在の危機さえ招くことがある。抑圧ではなく、いかにそういうものとうまく付き合っていくか、ということこそが、本当は大切だ。

現代のビジネス社会では人間は機械のように永久に死なない存在として考えられるが、当然それは事実とは違う。この矛盾の間で人間は苦しむ。ネガティヴな感情とは、人間という存在が絶対的危機に陥ったときの精神の安全装置でもある。だから、この安全装置が外れると、諦めや悲しみといった感情の代わりに、状況に反発する「怒り」が表面に出てくるが、多くの場合、「怒り」はその場を破壊はするが、うまく切り抜けられる道は示せない。

現代という時代は、ネガティヴな感情を抑圧し、人が人として生きる健康な心の状態を壊していく、本質的な問題を大きく内包している、と、私は思っている。結果として、ネガティヴな感情そのものの否定は、なにもかもがうまくいっているときには良い方向に働く場合もあるが、一つうまくいかないことがあると、全部をダメにしてしまう。またそういう精神状態にある人は、悲しみやあきらめといった感情の代わりに怒りという感情を持つため、本人はそれが良い状態と思い込むが、それは本人の周辺の状況を悪化させていることには気がつかない。

現代という時代においては、ネガティヴな感情とは、悪い状況の中で人間の精神安定に資する安全装置である。これが外れ、怒りが先行し、悲しみやあきらめを許さない精神構造が時代を支配している。それは人間存在への否定であり冒涜である。ある種の自己啓発セミナーや新興宗教とビジネス指南が、同じように見えることがあり、それになんとなく違和感があるのは、そのためである。これらのものは、「常に勝て」というメッセージを絶え間なく送り込み「悲しみ」「諦め」から人間を解き放つというが、それは「抑圧」しているに過ぎない。その代わりに「怒り」で人間社会を破壊していく。それにハマった人は、「悲しみ」「諦め」を感じない代わりに「怒り」を持つ。それを「幸せ」としているのである。

特に世界的な下降線の時代である。人間には、普通にしていても、さまざまな災厄がやってくる。良いこともあれば、そうでないときもあり、人生はそれがまだら模様のようにやってくる。本当に大切なのは、それでも強靭な精神安定を得るための「悲しみ」「諦め」であって、それを拒否する「怒り」ではないことを、知るべきである。

 


音楽とかのこと。

普段はあまり書かないんだが、自分のことを書く。まずは音楽中心に。自分のメモとして書いてみた。

高校生の時は吉田拓郎とかが全盛で、ぼくもフォークソングクラブに入った。顧問の数学の先生が、先生をしつつプロのブルーグラスのバンジョー弾きであったため、ブルーグラスにハマる。歌集の日本語訳などで英語を勉強し歌で発音を覚えた。そうしているうちに音楽の嗜好は様々なジャンルに飛び、聴く方じゃクラシックから邦楽まで何でもかんでもだったし、スピード感のあるシカゴやB.S.T.などのブラスロックはよく聴いた。

やはりポップス系は多く、フォークギターを弾き、ピアノも自宅にあって、まぁよく音楽の勉強はした。楽典もこのあたりで勉強した。和声学も勉強した覚えがある。しかし高校生の時って、自分で作詞作曲していたし、下手なアレンジもした。気がつけば友人たちとミュージカル作っていた。これを学園祭のときに杉並公会堂でやったんだから、今から考えると「無謀」という一言。若かったなぁ。

その時は裏方のPAまで一緒にやっていて、どうやって両立していたか、未だに自分でもナゾ。やっぱポップスは多かったね。クラシックもよく聴いた。大学あたりでシンセサイザーを自作して自分で多重録音して楽曲を作った。このあたりで基本的にキーボードになったなぁ。

で、社会人になって最初に就職したのがオーディオメーカー。でもさ、小さなメーカーの技術者ですよ。出身大学は三流だしね。どうしようか、これからの人生、って思ったよ。いや、本当に。気がつけば、ピアノの即興演奏にハマり、深町純さんと知り合う。深町さんは高校生の頃のFMラジオで自分の番組を持っていた。ある日AERAを読んだら深町さんが出ていて、洗足学園シンセサイザー科初代学科長だったのが麻薬で挙げられ、3か月に一回、ライブを六本木ピットインで、寂しくも派手にやっているというので、行った。

コンピュータ音楽をずいぶんやっていた深町さんは、ぼくのC言語の本を読んでいてくれた、ということで親しくしてくれた。で、深町さんっはその後くらいから、フュージョンから即興演奏に興味が移った。ぼくも深町さんの真似事みたいに即興演奏が楽しくて仕方ない。で、今に至るので、まぁ音楽はこんな感じで楽しんできた。だから、ぼくの音楽は他のひとのものとはかなり違う。深町さんはその後、ライブを恵比寿のアートカフェ1107というところでやるようになって、ぼくもそこのオーナーの鈴木さんといろいろ話をするようになった。鈴木さんは、森昌子さんを作った人だったから、彼女がプロダクションをやめたときのホームページを作らせてもらったりした。

その頃、台湾の人たちと会うことがあって、台湾新聞の日本語版をやっていて、取材、記事書き、写真、ビデオ、編集、などなんでもやった。今でも関わっているけどね。

とか、音楽大好きでITもやっていたんだが、大学生の時のアルバイトは出版社で編集。文章を書くことを叩き込まれた。大学では、半導体の研究室だったけど、電気回路の勉強をして、その後コンピュータの勉強をして、どれもこれも楽しかった。大学を出てしばらくした頃、コンピュータ言語の本を書かないか?ってことを言われて、C言語の本を書いた。けっきょく10年くらいのあいだに100万部くらい売れた。その後、ぼくはコンピュータ関係の本を20冊以上くらい書いた。

で、コンピュータの仕事をしているときに、産総研(経産省)のバイオの研究所に行かないかというので行った。バイオは素人だったから、いろいろ必死に勉強した。気がつけば、勉強ばかりしていた。しかも一流の人たちに囲まれて。だから、自分は他人から見て、つかみどころがないんだよね。ルネッサンス的、っていう感じかも知れない。よく言えば。ただし、どれもこれも楽しくてしょうがなかった。国立の一流の大学を出たわけじゃないし、未だに博士も修士も持ってないけどね。まさか、東大の研究所の研究員をやり、産総研の研究員をやり、韓国の大学の教授やるとは、人生ってわからない。しかも高校生の時に赤点取って親に大目玉食らった英語で教えたという。自分でも信じられん。あ、会社も経営したんだった。しかもカリフォルニアとか韓国の支社も持った。韓国の友人はここでできていて、今でも大変に世話になっている。気がつけば波乱万丈と言ってもいいかも知れないけど、自分ではそういう自覚はない。好きなことをやってきた。楽しい。それだけだったんだな。

で、今に至る。な、わけですよ。まぁ、こんな人もいる、ってことで。

 


サイバー戦争が始まった(10) ドローン・ゲリラ

※この記事はフィクションです。事実ではありません。

葛飾・柴又。江戸川べりに出れば、向こう岸は「矢切の渡し」。緑の匂いが濃い夏の風が、柴又の川沿いの野球場に流れている。川の水の匂いと、深い緑の匂いが、夏場の暑い風に混ざって吹いている。時は昼間。お昼の時間で、野球場の子どもたちはお昼ごはんを野球場の中で食べている。

ご飯を食べ終わった子どもたちなのだろう、野球のバットが硬球を打つ音やグラブが硬球をつかむ音が響く。その川べりで、突如としてプロペラの風を切る「ブーン」という音がしたかと思うと、一機のドローンが川べりの草むらの中から飛び立っていった。かなり大型のドローンだ。この多きさのドローンをこの場所で飛ばすには、警察などに届け出がなければならないのだが、実際のところ、周辺に人がいない川べりで、ほとんどそれを気に留める人はいない。

操縦者はすぐにわかった。野球場の隣でジーンズを履いた男がラジコンのコントローラーを握っている。

ドローンは川の上流に向かって、飛んでいくと思うと、さっとこちら側の岸の中に姿を消した。それを見ていた子供が言った。

「金町浄水場に行ったね。なんなんだろう?」

その浄水場で「ガシャーン!」という音が響いた。ドローンは、濾過池に落ちた。浄水場の人たちが、そのドローンを濾過池から引っ張り出す。

「だれだ?こんなことをしたのは?」

浄水場の人たちの誰かがそうつぶやいた。と、そのとき、浄水場の主任クラスの人間とおぼしき中年の男が叫んだ。

「すぐに引き上げ作業をやめて、配置にもどれ!。戻る前に、全ての服を脱いで破棄し、新しい服にしろ。服を脱いだら、そのままシャワー室で頭も含めて全身を洗え!なにか健康被害があったら、小さなことでも必ず報告しろ!」


その日の午後から夜にかけてNHKが広域で臨時ニュースを流した。

「臨時ニュースです。都民の方は必ずこのニュースを聞いてください」

ニュースはまず最初にそう言った。

「本日昼、金町浄水場で何者かが、ドローンを飛ばして浄水場に、強力な毒性のある細菌を入れたという報告がありました。以下の区の方は、水道水を飲まないで、ミネラルウォーターなどを買って飲んでください。また、お風呂の水にも水道水を使わないでください。しばらくお風呂やシャワーの利用は控えてください。また、健康被害と思われる症状が出た場合は、速やかに近くの病院か保健所に申し出てください。水道水の飲用制限・利用制限の出ている区は以下の通りです。港区、江戸川区、練馬区。。。。」

金町浄水場から配水される水道水は「日本一まずい」などと言われることが多かったが、それでも都内では多くの地区で使われている。

広域を狙った「水道水テロ」。それは、ドローンで行われたのだ。

 


サイバー戦争が始まった(9) スパイ-2

※本記事はフィクションであり、事実ではありません。

インターネットの接続を契約している通信会社から電話がかかってきた。

「今から、そちらの会社につながっているインターネットがしばらく使えなくなります。局側の工事です。すみません」

そうか、と、いうことで返事をした。

「いつもありがとうございます。復旧はいつごろになりますか?」

すると、担当者は答えた。

「だいたいこれから2時間くらいです。ご不便をおかけしますが、よろしく願い申し上げます」

礼儀正しい人だった。そして、それから2時間、インターネットは使えなくなったが、2時間後にインターネットが復旧し、いつもの通りの業務をこなし、その一日は終わった。

彼の会社「A商事」は、年商数千万円だが、女性の会計担当と社長の2人だけの会社だ。利益は少ないから、2人が食っていくだけで精一杯だが、主に中国などから電気製品の部品を買ってきて、それを国内の大手電機メーカーに売っている。中には自衛隊などに納入するような値段の高い部品もある。そういうものは、MIL規格という米国の軍規格の部品で、高いが民生品と比べると使用温度範囲が広いなどの特徴がある。また、部品の加工の精度なども決められており、一定の基準以下のものは絶対に納入できない。しかし、一方で、こういった部品は通常の部品に比べて高価だ。

父親が創業した会社で、現在の社長はその息子が受け継いでおり、社歴は50年を超える。小さな会社だが、日本の産業を支えてきた、という自負もある。

翌日の朝、また電話が鳴った。

「すみません。昨日に続いてですが、今度は切れることはないんですが、インターネットを使うと、いつもより速度が遅くなることがありますので、お知らせいたします」

通信会社の社員はそのように言い、電話を切った。

そして、翌日もそのまた翌日も、同じ電話があり、いつも使っているインターネットは確かに、少々速度が遅くなっているようだった。そして、そんな日が1か月も続いただろうか?通信会社から、毎日電話がかかってきた。そして電話が鳴った。

「これまで1か月、ありがとうございました。これからは以前の速度に戻ります。ご協力ありがとうございました」

「ご苦労様でした。特にこちらの仕事には支障ありませんでしたので、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

電話は切れた。そのとたん、会社に警察が踏み込んできた。

「社長のXXさんですね。今から最寄りの警察署に出頭願います」

当然だが、こういうものは断りきれるものではない。A商事の社長は警察で尋問を受けた。

「XXという部品を扱っているそうだが、注文した日本の会社と金額、納入価格と納入量を教えてくれ」

「納入した業者とはどこで知り合ったんだね?経緯を教えてくれますか?」

警察では「尋問」という形式ではあったが、非常に丁寧な受け答えをしてくれていた。A商事社長もそれに答えて、自分の記憶にある限り、丁寧に答えた。尋問は2日間に及んだが、そのやりとりは非常に細かいところまで聞かれたものの、社長自身にはなにもやましいことはない、という気持ちがあったため、質問に対する答えはスムーズだった。

尋問から開放されるとき、社長は言った。

「他に、聞きたいことがあれば、いつでもお答えしますから、お電話でもメールでもいただければありがたいです」


A商事の社長は、親の代から親しくしている同業者の社長に、数日後に会って酒を飲んだ。警察に呼ばれたことを語ると、その社長はA商事社長にこういった。

「その部品を納入したX社だが、今日、そこの社長が逮捕された。スパイ容疑だ。どうやら、あんたの会社で納入した部品を、Y国に売っていたらしい。そして、その部品だが。。。。」

A商事社長が遮った。

「わかった。あの部品だな。あれは航空機の燃料の利用効率を格段に上げる、という装置に使う部品で、それ以外には使われようもない。そういうことか」

彼は納得した。

「しかし、どこで通信が漏れたんだろう」

「警察にか?」

「いや、通信会社がおかしなことを言ってきたのはわかる。それはきっと警察が指示したんだろう。そうじゃなくて、なぜうちの会社を狙って、部品納入をさせたんだろう、ってことさ。うちの業務内容や扱い商品は客先と極秘でやるとりしているから、これまでもかなり気をつけているんだが」

「それな、おまえのところのインターネットに接続している、ルーター(インターネットと会社のネットワークを中継する装置)だよ。通信会社が置いていったやつさ。それは日本製じゃなくてC国の会社が作ったものだ。だから、そこから、君の会社の秘密が漏れたのさ。いわゆる、バックドア、ってやつだな」

A商事の社長は、友人の社長の紹介で、純国産のルーターにそれを変えることにした。


サイバー戦争が始まった(8) スパイ

※本記事はフィクションであり、事実を書いたものではありません。

その日、自宅を出るときに忘れずに自宅の窓際においてあるリモートコントロールができるIPカメラ(Webカメラ)のスイッチを入れておいた。IPカメラでインターネット経由でペットのハムスターの様子を外から見るためだ。自宅は高層マンションの上の階にある。眺めは非常に良い。

会社の昼休み。いつもの通り、スマートフォンのブラウザで家のIPカメラのURLを入れ、IDとパスワードを入れると、カメラがまず写したのは、室内のハムスターのケージではなく、窓際の反対側の外側の景色だった。

「おかしいな。カメラはハムスターが映るようにしておいたのに」

彼はつぶやいて、カメラのリモートコントロールを動かし、カメラの方向をハムスターのケージに向ける。すると、カメラから室内の誰かの声が聞こえて来た。娘が帰ってきたのだ。娘は、Webカメラが動いているのを確かめると、カメラに向かって言った。

「お父さん、今日は午後は先生が教育研修に行く日で、授業は午前中だけになったんで、早めに帰って来ました~」

娘もこのWebカメラについては知っていて、カメラが動いているのを見て、父親が見ていることがわかったのだ。娘の笑顔がカメラに写っている。

ふいに、カメラの向く方向が変わった。なにも操作をしていないのに。誰か知らない第三者がカメラのコントロールを奪った。父親のスマートフォンからはカメラのコントロールが効かなくなった。

窓の外に向いたカメラには、家の高層マンションの窓から見える、少し離れたところにある自衛隊基地の滑走路が写った。コントロールは奪われたままで、ズームが動き、基地で整備中らしい自衛隊機の格納庫の周辺が映し出された。

彼はその日、帰ったら、まずWebカメラを取り外すことにした。

 


もしも「ゼリア新薬」のような研修を受けなければいけなくなったらどうするか?

数日前のBLOGでは、「ゼリア新薬」の「新入社員研修」の問題を取り上げた。この前の記事で、人間の性格の変容というのを短期間で積極的に作り出す「技術」というものが存在し、それはどういうものであるか、ということを明らかにした。

しかし、実際にあなたがそういう研修を受けなければならなくなったとき、どう対処したら良いだろう?

最近は日本に春から台風が多いが、私達は天気予報で台風の進路と大きさを事前に知り、台風が来たらどうするか?ということについて、一応の知識を持っている。そのため、被害を最小限に留めることができる。反対に、地震は現状ではいつ、どういった大きさで、どのように来るかわからないから、恐怖が増す。「アクシデント」とはそういうものであるので、なによりも「事前の予備知識」は得ておいたほうがいい。つまり、こういった企業研修、自己啓発セミナー、新興宗教の勧誘などは、基本的に「意図」があり、そのためにあなたに「プレッシャー」をかけるものだ、ということだ。その意図と方法を知れば、対処もできる、ということになる。まずは相手の意図を「知る」ことである。

たとえば、今回のゼリア新薬の社員研修の場合は、社員に会社の意図に沿った人格の変容を求め、その変容によって、会社の向かう方向に適して、文句を言わずに働く人間を短期間に強制的に作るのが目的である、と言う意図が読み取れる。それに反発する、という人もいるだろうが、そういう人は、まず研修を受ける前に、会社をやめて、他の仕事を探すのが良い、ということになる。一方、多くの人はそういうわけにはいかず、会社から払われる給与で生活を成り立たせる、という大命題があって、「就職」しているわけだから、この研修をなんとか乗り切って、研修の後に続く仕事をはじめなければならない。

こういった自己へのプレッシャーが強い研修を受けると、精神異常もあることがあり、極端な場合は、今回の事件のように「自殺」に至る精神状態になる場合もある。そこで、そういう精神状態にならないように、あらかじめ、研修の内容にはどう答えれば「会社が望んだ社員になりきれたところを見せられるか」ということを考え、行動すると良い。つまり、どんなときも冷静さを失わず、自分の気持ちと行動や発言を切り離し、研修用の別の自分を作り、研修を乗り切る、ということを考える。仮面の自分を用意しておくのであるこれを意図するだけでも、かなり違うはずだ。実際「要領のいいやつ」というのは、こういうことがピンときて、できる人間が多い。

実際、こういった研修をいつまでも延々と続けていては、企業も経営が成り立つものではない。必ず研修の期間は短期で終わる。コストを延々とはかけられないのだ。であれば、その期間だけ「別の自分」を作って、自分を自殺などの精神の危機から救うことは非常に重要なことなのだ。

必要なのは、心の平穏を保ち、冷静に状況を見極め、必要であれば正直で誠実な自分以外の「別の自分」に、その期間を託す。そういう変わり身が、あなたを救うのである。別の言い方をすると、その研修の期間のあなたは、マンガの主人公になったつもりで、「別の自分」を演じてみよう、ということだ。そこで、本来の自分の命の危険を感じるのであれば、その場にはいられなくなるので、やはり会社をやめる、という選択しかできなくなってしまうのだが、命には替えられるものはない。

 


サイバー戦争が始まった(7) 照準

※本記事はフィクションであり、実際に起きた事実ではありません。

その日は晴れていた。午前7時。日本海の荒波、という表現があるが、天候不良もあって、例年通りの天候ではなかった。まさに「凪」。静かな海だった。そこに、国籍不明の船がなんの識別信号も出さず、突如として日本領海に飛び込んできた。

灰色の装甲らしい鉄板に覆われたその船からは砲塔が出ているのが見える。明らかに漁船ではなく、民間の輸送船でもない。戦艦らしいというのはわかるが、海上保安庁のレーダーと視認の後、警告が行われたが、船は止まらず、佐渡ヶ島の日本海側に向かっている。さらに何度かの警告でも船は止まらず、海上保安庁から海上自衛隊に事態が伝えられた。

海上自衛隊の艦艇が現場に向かい、偵察機が現場の海上に向かった。艦艇が不明船の200mほどの距離に近づいたとき、船長が不明船を艦橋のガラス越しに双眼鏡で認めた。と、そのとき、瞬時に不明船から光線のパルスが発射され、艦橋の船長を狙って当たった。光線は命中したが、超強化ガラスが粉々に砕け散ったものの、船長は助かった。

カンのいい副艦長が叫んだ。

「敵は、顔を見せると、顔に向かってレーザー光線を出す。絶対に顔を敵に見せるな!」

不明船は攻撃を続けるでもなく、そのまま日本海の向こう側に姿を消した。

それから1か月後、その不明船は日本海の海岸に漂着していた。なんらかのコントロールが効かなくなり、行く方向を間違って、海岸に座礁したものと思われた。乗組員はなく、完全なリモートコントロールの無人船であることが確認された。太陽光発電で電力が蓄電池に供給される仕組みだが、このところ続く台風で天候不良の日が続き、長く日照りがなかったため、電池が尽きたものと推測された。

船を調べた技官が上司にため息をついて言った。

「みんな民間の技術の寄せ集めですよ」

その技官の調べたところによれば、船の動力は電力だが、太陽光発電でリチウムイオン電池数万本の「蓄電池」に蓄電し(これは電気自動車のテスラなどが持っている技術に似ている)、それを動力として動く仕組みだった。船は無線でどこからかの基地局とつながっているが、日本海など、船舶無線や携帯電話の電波が飛び交うところでは、日本の携帯電話会社のLTE回線にニセの認証システムで侵入したあと、インターネットを使って、本国の基地局ともつなぐことができるなど、かなり高度なシステムだった。もちろん、自船の位置はGPSでわかるようになっていた。

さらに、自衛艦を狙った狙撃システムは、デジカメでよくある「顔認証」システムで、その認証したターゲットに向かって、強力なレーザー光線を自動的に発光する仕組みだ。だから、「顔」が狙われたわけだ。日本製のデジカメに改造がほどこされて、その標的特定システム(自動照準システム)ができていた。

技官はつぶやいた。

「これなら極端に安くできる」

民生品のみで構成できるハイテク武器だったからだ。

「ほら、このカメラ、中の基板には<Shenzhen>と書いてある。中国の深センのことだが、もちろんそこで作っているのは民生品の部品だけだろう。MADE IN JAPANって書いてある日本製の電子機器でも、ほとんど中身は中国製が当たり前だからね。」